渓谷沿いの細い小径を辿る私の頬を、柔らかな芳春の風が撫でていく。
桜の舞い散るその奥に、ひっそりと佇まうささやかな温泉宿。そこに……彼が居る!

 私、月島春香。
医師を目指して都会の学校で猛勉強中。
脇目もふらず……と言いたいトコなんだけど、やっぱり私だって年頃の女の子、気になる男の子のひとりくらいはいるわ。
でもそいつったらもう何考えてるのかわかんない! あんなのが女の子に人気あるなんてね。
クール? 私に言わせりゃ無頓着なだけよ。あいつのマイペース加減には頭に来ちゃう。

 そんな彼が、家の都合で学校を去ることになった。
とりあえず親戚だかなんだかがやってる田舎の旅館に身を寄せるらしい。
彼に振り回される日々は突然終わりを告げた。私はひどく動揺して……ひどい言葉であいつと別れてしまった。
私が彼に言いたかったのはそんな言葉じゃなかったのに……。

 そして春休み、私は意を決して旅立った。
彼が暮らす山間の温泉宿へ。

あいつともう一度言葉を交わすために。
そして……私の気持ちを確かめるために!


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